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ワールドトリガー ショートストーリー集

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持たざる者

持たざる者
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「何を見ている?」
レプリカの声に空閑遊真は傍らの黒い球体に視線を向けた。学校の中では滅多に姿を現さないレプリカだがこうして空中に浮遊しているということは他の学生がこちらを見ていないということだろう。
遊真は学校が放課して真っ先に外に出てきていたので、他の生徒が三々五々帰っていく姿を校門から少し外れた木にもたれながら見ていた。あたりにはこちらの世界の学校の特色でいくつもの木々が植え込まれていて確かに少し離れるとレプリカは目をこらしていてさえ見つけにくい。
「修」
遊真の答えはいつもシンプルである。
「ああ、さっき誰かに呼び出されていたな。修と一緒に帰るのか?」
レプリカの言葉に遊真は頷いた。
「俺はまだこちらの世界に慣れていないからな」
三雲修は警戒する必要のない人間だと遊真は考えていた。もう少しはっきり言うならば三雲修は裏切らず嘘をつかない。そういう人間は貴重なのだ。それにこの世界の情報を得るというだけではなく一緒にいて安心できる相手というのはなかなか得がたい存在でもある。
「それに今回の件でボーダーにもネイバーにも修は注目を引いてしまったからな。そのきっかけの一因を作ったのは俺だ。しばらくは一緒に過ごすつもりだ」
自分の素性を知られないように振る舞いはしたが、すべてがごまかせるとは思っていない。事態が一介の学生に対処できるものではないと思ったボーダーがいないとも限らない。
「修は面倒見がいい。確かに遊真が最初に出会ったボーダーが修だったのは遊真にとって幸いだった」
レプリカはつぶやいた。そうしてまるで触手のようなカメラアイを動かして尋ねる。
「修はどこにいる?」
レプリカの言葉に遊真は視線を動かさないまま答えた。
「今ちょうど昇降口を出てくるところだ」
レプリカは遊真が見ている方角へとカメラアイを向けた。
「なるほど。一躍有名人になったからな」
二人の視線の先で三雲修が何人もの学生に声をかけられているのが見える。困ったように修が答えているのがこの場所からも見て取れる。ようやく話を打ち切って修が少し昇降口を出たところでまた別の学生に囲まれたのが見えた。ここまで出てくるまでまだまだ時間がかかりそうだ。
「修はなかなか見ないタイプだ。誠実だし常識的というのだろう」
レプリカはつぶやいた。
「そうだな」
レプリカの言葉に遊真は頷いた。
「それに修は面倒見がいい。ただあまりにも無鉄砲すぎる」
「俺もそう思う。…おや」
空閑遊真はふと身を起こした。
「あいつら…様子がおかしくないか?それに見覚えがあるぞ」
遊真の視線の先で学生に取り囲まれていた三雲修の表情が変わっていた。ずいぶんと硬い表情だ。
「…」
レプリカはしばらく眺めていたが小さくつぶやいた。
「本当に人間という者は面白いな。あれは遊真がこの世界に来た時に足の骨を折った学生たちだろう。もう懲りたと思ったんだが…」
「なんで修に声をかけているんだ?」
「いや、本当に面白い」
レプリカの口調は淡々としたものだった。
「連れて行って遊真の代わりに修に報復しようというものだろう」
よほど遊真にやられたあの時のことが腹に据えかねるというものかなとレプリカは付け加えた。
「報復?」
遊真はわずかに首を傾げる。
「あいつらが報復するべきなのは俺だろう?修はやられっぱなしだったし…」
「本当にこちらの世界には面白いやつらがいる」
レプリカは遊真の問いに答えた。
「修もしかり。あの学生たちもだな。彼らは遊真に報復したいのだろうが、遊真は怖いという記憶が潜在意識にすり込まれたようだな。だから遊真には手を出せないがそうかといって黙っていても気は晴れない。だから修を痛めつけたいというところだろう」