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刀剣乱舞 三日月宗近×鶴丸国永 ショートストーリー集

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初夏の月見

初夏の夕立

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廊下を歩いてくる気配。

鶴丸はふと顔を上げた。そろそろ三日月が戻ってくると聞いていたが戦いを無事に終えて部屋に三日月が戻ってくるには早いはずだった。主の宴はまだ続いている。足音はそのまま部屋の前を通り過ぎていくだろうと思っていたのに不意に止まった。

扉が開く音がして鶴丸ははっと顔をあげる。

「ああ。ここにいたのか」

入ってきたのは一目見るだけで目を奪われるような端正な面差しの美男子だった。

この城内でももっとも年長者のくせに端正な美貌には微塵の衰えもない。側仕えがいつも三日月の身なりを整えているので遠征から戻ってきてもまるで内勤のように見える。主は刀剣たちがそれぞれにきちんとした身なりでいることが好ましいらしく側仕えを使うことを許されている三日月や鶴丸はずいぶんと楽をさせてもらっている。

「三日月…」

久しぶりの逢瀬だった。鶴丸は座ったまま三日月を見つめていることにも気づけないまま見上げていた。

さらさらとした黒髪にいつまで魅入っていても飽きることのない瞳の輝き。

「どうした?」

その声も耳に心地よい。

「俺の顔に見とれておるのか?」

「…っ…」

かあっと顔が赤くなる。

「いや、そうでもない」

「そうか」

鶴丸が見とれていたことは気づいているだろうに三日月は気づかぬ体で鶴丸の側を通り過ぎ庭に面した窓を開けた。

こういうところが三日月が他の刀剣たちにも一目置かれるところなのかもしれない。触れて欲しくないところには触れず一緒にいて心地よい。

否。

三日月の視線が外れたことで遠慮なくその姿を眺められるようになった鶴丸はそう思わずにはいられなかった。

一緒にいて心地よい。それがいつから一緒にいてどきどきするようになったのだろう。

一緒に隊を組まなくなってからだろうか。若手の育成を考えればそれは当然のことでもある。

正直なところ三日月に教わりたいと心の底で思う部分はあるけれども。自分にもできることがある。いつまでも三日月に頼っていては駄目だとも思う。

そう思ってあえて離れて、でもこうして宴を抜け出して三日月が自分のところに来てくれることがなぜこんなにも嬉しい。

「ああなかなかいい月だ」

縁側に座り込み三日月がふり返る。

遠征にでれば向かうところ敵なしというぐらいの強さなのにその身を覆う装身具は到底戦う姿ではない。

「鶴、こちらに来ないか…?」

「あ…ああ」

頷いてふと思い立ち、部屋に側仕えが用意してくれている酒を手に取る。

「飲むか?」

「そうだな?」

再び月を仰ぎながら三日月は頷いた。

「それもいいかもしれぬ」

引き寄せられるように三日月の傍らに座す。月の白い光が降り注ぎ、あたりの光景が白く浮き上がって見える。

「ああ…なかなかいい月だ」

そう言いながら三日月が酒を引き寄せようとし一瞬手が触れあった。

「…っ…」

触れたのはほんの一瞬。

だがあまりにもその触れた肌の熱さに驚いて鶴丸は反射的に手を引く。

「どうした…?」

挙動不審であることは分かっているだろうに三日月の声は常とは変わらぬ。

「熱が…?」

「いや…」

鶴丸の方を向いた端正な三日月の顔は常とは変わらぬものだった。

「別に怪我も負ってはおらぬ。熱などないぞ。触れてみるか?」

少し秘密めかすように言う。

確かに熱があるような声ではない。ではどうして触れただけでこんなに飛び上がるような反応をしてしまったのか。

自分の気持ちが分からぬまま鶴丸は口ごもった。

「いや、熱がないのならいい」

「なかなかにつれないな、鶴は」

微笑む三日月の声。

「まだ…分からぬのだろうな」

「三日月…?」

「それともそろそろか…」

何を言っているのだろう。その切れ長のまなざしはどこか熱い色を称えて鶴丸を見つめていた。

部屋の外で三日月を呼ぶ声がした。

「どうも鶴ともなかなか酒を酌み交わすというわけにも行かぬようだ」

苦笑して三日月は杯をおく。

「あまり待たせるな…」

その言葉を残して三日月が立ち上がる。

三日月が出て行くのを鶴丸はただ見送ったのだった。