top狼陛下の花嫁小説>天女降臨

イベント参加のお祭り企画
いつもそらいろさんごの作品をご覧くださっている読者様に感謝を込めて
公開です。お楽しみください

「天女降臨」初期再録集2に再録(8月18日再版)初出は2011,5,4東京コミックシティ発行
珀黎翔×汀夕鈴
珀黎翔が倒れた!
王の命を狙う卑劣な毒
解毒剤の副作用で
夕鈴の記憶を失った珀黎翔に・・・
 
    ***********

 ここは白陽国。若き王珀黎翔が治める国である。珀黎翔は前王と代替わりするや徹底的な粛正を行い、中央行政を建て直し、治水につとめ、攻めいる諸国との戦争を自ら軍を率いて退け狼陛下の二つ名をいただくこととなった。
 ひとたび内乱が集結すると宮中の関心は王の花嫁へと移っていく。珀黎翔が決して傀儡の王にはならないだろうことが、名門貴族に知れ渡るに連れ後宮に娘を送り込み、外戚として王を操ろうと考えるようになった。
 その縁談を断るために珀黎翔の側近李順が考えたのは臨時花嫁を雇うことだった。王には心底惚れ込んだ妃がいてほかの姫には目もくれない。その策は成功した。李順も珀黎翔も思っていなかったことだが、臨時花嫁として雇われた汀夕鈴に珀黎翔は本当に心を引きつけられていったのだった。
 このまま日々が穏やかに過ぎていくかに思えたのだったが、初夏の日差しが照りつける5月、王宮は予想もしない激動の渦に巻き込まれていた。
 「陛下っ、陛下……!」
 泣き叫ぶ女官の声。運んできた茶器を取り落としたのか陶器が砕ける音が響く。
 「誰か!、侍医を呼べ!」
 「護衛を!」
 「犯人は誰だ!」
 「その女をとらえよ!」
 「違います!。私ではありません!」
 入り乱れる足音。
 犯人と目された女官の悲鳴。机上から文具が落ちる音。ここは執務室の中だった。その日も珀黎翔は執務を続けていたのだ。珀黎翔は精力的に執務をこなす。通常はその側に妃である夕鈴が侍り、わずかな休憩時間にお茶などの用意をするのだが、この日は書類を整えるようにと用事を言いつけられて席を外していた。
 「……っ陛下……!」
 執務室の隣室で書類の片づけに励んでいた夕鈴は、その喧噪に執務室に入ってきて立ちすくんだ。珀黎翔が床の上に倒れている。あたりに散らばる署名するための道具。その周りに膝をつく李順の姿や、身を引くようにして珀黎翔を遠巻きに取り囲む貴族や官僚の姿は夕鈴の目に入らなかった。
 「陛下……!」
 夕鈴は思わず叫んでいた。
 「……っお妃様」
 夕鈴に気づいた貴族が道を開ける。床の上に倒れた珀黎翔の姿は動かない。
 「……っ陛下……っ」
 喉がからからに乾いていた。大声で叫んだのに、夕鈴の声はかすれて出なかった。珀黎翔が倒れている姿など見たことはなかった。剣をとっては比類なき武人、幾多の暗殺者を返り討ちにしてきた珀黎翔が倒れ伏すなど信じられない。
 そのまま珀黎翔の側に駆け寄ろうする。夕鈴に気がついた柳方淵に腕を捕まれた。
 「危ない!、お妃様!。ひとまず後宮へお戻りを」
 柳方淵も動揺しているのがその口調からもわかる。それでも珀黎翔が夕鈴を第一の妃として遇していることをほかの誰よりもわかっている柳方淵は夕鈴を引き留めようとした。
 「はなして!」
 夕鈴はあらがった。手を珀黎翔へとのばす。
 「陛下!、陛下!」
 夕鈴の声にも応じる声が聞こえない。床がぐらぐらと揺れているように感じられる。なにもかもが崩れさっていくような不安と恐怖。
 先ほどまで珀黎翔は怖く強い狼陛下を装って、この国のために尽くしていたのに。どうしてこんなことになったのか。
 「どうして!、陛下!」
 「暗殺のたくらみです!。女官!、お妃を後宮へお連れしろ!ここは危ない!」
 いろいろやりあってきた相手とはいえ、夕鈴は珀黎翔のたった一人の妃である。強引に部屋を連れ出すこともできず、柳方淵が声をあげる。
 「……待て」
 かすれた声が響き、部屋の中が静まり返った。全員の視線が声の聞こえてきた方向へと向けられる。李順に支えられゆっくりと珀黎翔が身を起こした。
 「暗殺未遂……のたくらみだ。方淵。まだ私は死んではないぞ」
 珀黎翔の声は幾分かすれていたが、その皮肉な言いようはまさしく狼陛下の異名をとるだけのことはあった。
 「……っ陛下」
 「皆、騒ぐな」
 そう言って珀黎翔は小さく息を吐いた。
 「大丈夫だ。毒は私には効かぬ」
 珀黎翔は鋭いまなざしであたりを見回した。そして立ち上がろうとさえする。はっと気がついて夕鈴は柳方淵の手を振りきり、珀黎翔の元へと走り寄った。その体を支えようとする。珀黎翔の手は熱かった。
 「さすが、我が妃」
 おそらくは毒を盛られたというのに珀黎翔は夕鈴に向かってほほえんでさえ見せた。
 「案ずるな、夕鈴。大丈夫だ」
 己を支える夕鈴の手をそっとはずし、珀黎翔は小卓に片手をついて己の身を支え、まっすぐに立った。
 「まったく仕掛けてくれるものだ」
 水を打ったように静まり返った執務室に珀黎翔の声が響いた。珀黎翔は視線を床の上に散らばった文具へと向ける。
 「署名の筆に仕込まれたな」
 珀黎翔は指先を見た。わずかな血の流れ。決済をすませた書類に署名しようと筆を手に取り、そして珀黎翔は倒れたのだった。 
 「柳大臣」
 顔色はさすがに白さを増しているが、鋭い声もまなざしも変わらない。
 「は、ここに控えております、陛下」
 さすがの柳大臣も緊張を隠せない面もちで珀黎翔の言葉に答える。
 「今回の件の訴追はお前に任せる。王宮内で毒殺をはかろうなど、私を甘くみるにもほどがあるな。王宮の出入りを止め、各人の所在を確認せよ。どこで毒が仕組まれたのか確かめ、犯人をあぶり出せ」
 「かしこまりました」
 言葉とともに柳大臣は部屋を出ていく。確かに毒を盛られて一度は倒れたというのに、この場を今支配しているのは珀黎翔だった。次に珀黎翔は視線を移し氾史晴をみた。
 「氾大臣」
 「は、こちらに」
 美貌で知られた氾家の長である氾史晴もまた緊張した表情を隠さぬまま珀黎翔の言葉に答える。
 「さすがに今日この状況で執務を再開というわけにもいくまい。先ほど決済したところまではお前の監督下において各を種執行せよ。決済がすんでいない案件の指示はまた後で行う」
 「かしこまりました。お任せください」
 氾史晴が深く頭を垂れる。そしてそのまま己に従う文官を引き連れ部屋を足早に出ていった。
 「陛下!、侍医が参りました」
 護衛兵の言葉とともに医者が執務室に駆け込んでくる。
 「皆様、外へお出ください」
 医師は強い口調でいう。
 「陛下よろしければ寝室へ」
 「休んでいる暇などないのだが……手当はひとまず仕方あるまいな。その筆に不用意にさわるなよ。毒の針が仕掛けられている」
 珀黎翔は執務室の中で己の側に従う李順に一目視線を配った。それからあたりを見回した。幾分髪が乱れ、顔色が白い。それでもなおこの部屋の誰一人珀黎翔のまなざしの強さには耐えられない威圧感があった。
 「だが、この身は大丈夫だ。手当は後でよい。侍医は先にその毒の種類を調べよ」
 「……かしこまりました」
 侍医は珀黎翔の命令に従って床の上に膝をつき、珀黎翔が取り落とした筆の上にかがみ込む。
 「我が王宮で王に毒を盛ろうなど考えた者はその報復を身に受けることになろう。私はこの通り大事ない。皆、浮き足立つことなくそれぞれに執務に励むように」
 「かしこまりました、陛下」
 あたりの惨状にも関わらず、常と変わらぬ珀黎翔の様子にあからさまにほっとした様を隠せぬまま、官僚や貴族たちは部屋を出ていったのだった。
 「陛下……っ陛下!」
 だが変わらぬ様子に夕鈴がほっとする間もなかった。
 人の気配がなくなるとぐらりと珀黎翔の上半身が傾いだ。先ほどまでの平静な様子は気力で取り繕っていたのだとわかるほどその倒れ込む有様は突然だった。
 「……っ陛下!」
 李順が声を殺して珀黎翔を支えようとする。危うく片手を机について身を支え、珀黎翔は苦笑してみせた。
 「大丈夫だ……しかし、今回はやられたな。油断していた」
 「暗殺者では陛下に勝てぬと見て毒を」
 李順は悔しげに言う。
 「これほどの猛毒、もしも飲み物に仕組むのなら毒味の者もいます。本来なら陛下が口になさることなどありえないのに」
 李順が歯を噛みしめる。
 「文具に仕組むとは……!」
 「まあ、いろいろ考えるものだ」
 珀黎翔は苦笑さえしてみせて、口調を変えた。意図的にいつもと変わらぬ様子を装って声をかける。
 「夕鈴……ちょっと後宮へ戻ってもらえる?」
 珀黎翔が夕鈴へと視線を向けてきて、夕鈴は握りしめた手をふるわせた。
 「いやです、陛下」
 夕鈴は強く首を振る。
 「私は陛下の側にいます」
 「……」
 珀黎翔は少し驚いたように目を見張り、そして幾分弱々しいながら嬉しげな笑みを浮かべた。
 「さすが、我が最愛の妃だな」
 侍医がいるためか狼陛下のままだ。そして珀黎翔は侍医の方へと声を投げる。
 「どうだ、毒の種類は?。何かわかったか?」
 荒く息を吐いて珀黎翔は片方の手を胸元へとあてた。呼吸が苦しげになっていた。床の上に転がった筆からわずかに出ている針を確かめ、ほんの一垂らしの試薬を針に落として侍医は顔色を変えた。
 「……!これは猛毒の冬花美人かと。陛下!すぐに別室へ。解毒をお持ちします」
 侍医が声を潜めて反対側から珀黎翔を支える。
 「この毒を針で受けてよく意識が持っていらっしゃる。さすが狼陛下と呼ばれるだけのことはございますな」
 「毒に身を慣らしておいてよかったな」
 夕鈴は何一つ手伝えないまま、珀黎翔と李順の後に続いて寝室へと入った。
 「もう本来なら歩くことなどできないはずですのに。……お妃様にはご心配でございましょうがしかしながらご安心を。この毒は王家に伝わる解毒剤がございますので」
 侍医はついてくる夕鈴を安心させるようにうなずいて見せた。
 荒く息を吐いて、珀黎翔は己を支える侍医に視線を送る。
 「無駄口をたたいていないでさっさと解毒剤を調合しろ」
 「もちろんでございます。……しかしながらお妃様のご心配のご様子ゆえに差し出口を申し上げました」
 珀黎翔は寝室に入って寝台に寝かされながら侍医に問いただした。
 「この毒、何か特別の効果があるのか?」
 「毒の……効果?」
 珀黎翔をともに支えて寝室に入った李順が思わずしもといった表情で口にする。
 「この毒、即死系じゃなかったからな。それにこの毒の名に覚えがない。毒に身を慣らしてきたが……慣らしたことがない毒ということだ」
 珀黎翔が荒い呼吸のまま言う。
 「いったい何だ?」
 「陛下、基本は即死系の猛毒でございます」
 侍医は手元の薬箱を開け、忙しく解毒薬を用意しながら答えた。
 「もしも陛下が即死されておりましたなら、この解毒薬はまったく役に立ちませんでした。……しかしながら効果というのであれば、この解毒薬の方には副作用がございます。これほどの猛毒を解毒するのですから仕方がないことではございますが」
 さすがに王家専属の侍医だけあって手際がよい。何種類もの薬が混ぜ合わされ、白い紙の上にまとめられる。侍医は寝台の側に膝をつき、かしこまって珀黎翔にその薬を差し出した。
 「解毒剤に副作用……?」
 珀黎翔は差し出された薬をすぐには手に取らなかった。みるからに呼吸は苦しげなのに視線を侍医へと向ける。
 「どういうことだ?」
 「この解毒剤でひとまずは猛毒を中和できますが、残念ながら記憶が一部失われます」
 あわてた様子で侍医は言葉を継いだ。
 「記憶が失われるという記載はございますが、私も実際に試したことはございませんので、どの程度記憶が乱れるのかは確かなことは申し上げられません」
 「記憶……か」
 珀黎翔は眉をひそめる。
 「それは……あまり芳しくないな」
 「陛下、ためらっている場合ではございません」
 言葉を添えたのは李順だった。
 「陛下がまずお命あること。それがもっとも大切でございます」
 「陛下!」
 夕鈴もふるえる声を絞り出した。
 「お願いです!。死なないで!」
 夕鈴の声に珀黎翔は夕鈴へと視線を向ける。苦しいはずなのに、それでもわずかにほほえんで見せた。
 「まあ、確かにそうだ。記憶の損傷というのは望ましくないが……しかし、我が最愛の妃も命をと望んでくれていることだし、飲むしかないようだな」
 そうつぶやいて珀黎翔は身を起こした。そして片手を伸ばし侍医が差し出した薬を手に取る。そして一息に飲み干した。侍医はほっとしたようにうなずいた。
 「……これでお苦しみもやがては収まるでしょう。李順様、お妃様、看護の女官は誰が?」
 「あ、私がいたします」
 ようやく夕鈴は前に出る。まだ手の震えは収まらなかったが、ここは自分が出るべきところだとわかっていた。珀黎翔の味方がどこにいるのか今をもってしてもわからないのだ。なまじな女官をつけてそれが暗殺者だったら珀黎翔の命はない。
 「お妃様が御自らですか?」
 幾分驚いた様子で侍医は李順に視線を送る。よろしいのかというそのまなざしに李順はうなずいた。
 「いや、そうしていただいた方がよろしいでしょう。なにより常日頃ご寵愛の夕鈴様が側にいれば陛下もお心が安らかでしょう」
 そう答えて李順は唇を噛みしめる。表向きはそう言ったが李順が心の中で何を考えているのか夕鈴には手に取るようにわかっていた。信頼のおける者しか珀黎翔の側にはおけないのだ。そして少なくとも夕鈴は信頼されているのだろう。李順が珀黎翔の側においてもいいと考える程度には。
 侍医はうなずいた。
 「わかりました。そうおっしゃるのなら看護はお妃様にお任せいたします。では私は一度別室に下がり、次の解毒剤の準備をいたします」
 「よろしくお願いします。ああ侍医殿、少々お待ちを。調薬室まで誰かつけましょう。……方淵、方淵……!」
 父親の柳大臣とは別行動をとり、柳方淵は寝室の外に控えていたらしい。李順は侍医をつれて寝室の外へと出ていった。夕鈴は何一つ口にもできぬまま李順と侍医が寝室を出ていくのを見送った。珀黎翔の側に近づく。
 「陛下……」
 呼吸が苦しそうだ。今は意識もないようだった。珀黎翔が力なく横たわる姿を見たのは初めてかもしれない。
 「陛下……っ!」
 夕鈴はたまらず珀黎翔の手をとった。先ほどふれられた時は火のように熱いと思ったのに今は恐ろしく冷たくなっている。目を閉じたその面差しは端正な美貌も相まってまるで呼吸を止めた彫像のように見えた。
 (どうしてこんなことに!)
 夕鈴は心の中で叫ぶ。こんなにも白陽国のために働いてきた人なのに。優しい心を押し隠し、この国のため、民のため我が身を削るようにして献身を続けてきた人なのに。どうして珀黎翔を害そうなどとするのだろう。
 「夕鈴殿、夕鈴殿……!」
 何回か李順に呼ばれてようやく夕鈴ははっとする。
 「あ、はい、李順さん」
 侍医を送って戻ってきたのかいつの間にか李順が夕鈴の傍らに立っていた。
 「容易ならぬ事態になりました」
 李順の表情もまた蒼白だった。
 「まさか陛下が猛毒の冬花美人を使って暗殺されようとするとは。侍医の話によれば、今夜が峠になるかと思います」
 「今夜が……」
 夕鈴は息をのんだ。
 「いいえ!、大丈夫よ。陛下はけっして死にはしないわ」
 夕鈴は己に言い聞かせるように言う。
 「ええ。私もそう思います」
 李順もまた夕鈴の言葉に同意する。
 「でも……いったいどんな毒なんです」
 夕鈴は珀黎翔へと視線を戻した。呼吸が苦しそうだ。顔色も青白くなっている。
 「冬花美人は呼吸の方に作用する猛毒です。私も本で読んだだけですが、たいていはほんのひと滴で即死してしまいますよ。陛下は毒に身を慣らされていたので助かったのでしょう。一度毒が抜ければもう大丈夫なのですが……」
 「呼吸が苦しそう。まさかさっきの薬が毒だったってことはないわよね」
 そんなことはないだろうとわかっていてさえ、そう口走らずにはいられない。李順は首を振った。
 「それは大丈夫でしょう。侍医は代々王家付きの医師ですから。しかし、夕鈴殿」
 李順が夕鈴の腕をつかんだ。それは痕が残るほどの強さだったが李順はもちろんのこと夕鈴もそれに気づかなかった。
 「私はこの後宮中の動きについて情報を召集しなければなりません。陛下が目覚めたときに対応するためにです。夕鈴殿に陛下の側にいていただきたいのです。この寝室の外には柳方淵をつけます。信用のおける護衛を置きますが、部屋の中で陛下をお守りするのは夕鈴殿にお願いしたい」
 それがどれほどの思いで告げられた言葉なのか夕鈴にもわかっていた。珀黎翔が無事ならばいかなる刺客にも対処できるだろう。だが、今珀黎翔は毒のため無抵抗なのだ。
 「あ、護衛だったら浩大に頼んだらどうでしょう」
 はっと思いついて夕鈴は声を上げる。あの神出鬼没な隠密なら腕も良さそうだしずっと珀黎翔に付き従っている。信用できるだろう。
 「彼の腕は信用していますが、それはだめです」
 李順は首を振った。
 「彼はすでに陛下直々にある人物を護衛する任が下されている。その命令を翻すことは私にはできません」
 「そうなんですか」
 夕鈴は唇を噛みしめた。
 「ですから、ここは我々で切り抜けるしかないのです。狼陛下の威光は宮中に知れ渡っている。まして陛下があのぎりぎりのところで平静を装ってくださった。これほどの重体であるとは思わないでしょう。侍医にも今監視をつけています。医者の口から陛下の容態が宮中に漏れることはない。ですが夕鈴殿、陛下のお側に……」
 「もちろんついていますわ」
 夕鈴は強く答えた。
 本当は怖い。見ているだけで珀黎翔の呼吸が止まるのではないかと思えるほど。だが、側にいる。何もできなくても側にいることはできる。もしも暗殺者が現れたら、我が身を盾にしても守ってみせる。
 「お願いします」
 李順は頭を下げた。
 「何かあったら声を上げてください」
 「わかりました」
 夕鈴はそう答え、李順が部屋を出ていく姿を見送ったのだった。
 




「天女降臨」初期再録集2に再録(8月18日再版)初出は2011,5,4東京コミックシティ発行
珀黎翔×汀夕鈴

イベント参加のお祭り企画 
top狼陛下の花嫁小説>天女降臨