イベント参加のお祭り企画
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公開です。お楽しみください
「祝祭の花嫁」2013,6、30コミックシティ発行予定
A5 P52 500円+180円分切手+宛名カード一枚
珀黎翔×汀夕鈴
新たな任務を命じられた浩大が
夕鈴に別れを告げていなくなる
浩大の不在中に宮中では…
相手を思う気持ちはただ相手の幸せだけ望むのか…
祝祭の花嫁
*******
「えええ!。俺は嫌だな」
滅多に否とはいわない浩大の言葉に珀黎翔はわずかに眉をあげた。一方李順の方はつれない。
「あなたに拒否権があると思っているんですか?」
李順の言葉に浩大はわずかにたじろいだ。
「陛下のご命令に逆らおうってわけじゃないけどさ」
口ごもり浩大は珀黎翔が気が変わらないかというように視線を珀黎翔へと向けた。
「いくら隠密だってさ。仕事に拒否権ぐらいあるだろ」
「わざわざあなたを呼び寄せて陛下がご指名だというのに?」
李順は容赦なく追いつめる。
浩大は視線を李順へと向ける。
「そんなの…いくら隠密だってできることとできないことがあるんだよ」
ここは白陽国。前王から代替わりした若き王珀黎翔が治める国である。
代替わりの内乱を自ら軍を率いて制圧し戦場の鬼神、冷酷非情とおそれられる珀黎翔にはある秘密がある。
後宮にたった一人の妃を迎え寵愛する珀黎翔だが、その妃は本物ではない。縁談を退けるため雇われた臨時花嫁。
だが、同時にその臨時花嫁である夕鈴に心引かれた珀黎翔は夕鈴を妃として遇し、いつかは本物の妃へと密かに思っている。
その珀黎翔の執務室ではこの国の重責を担う男たちが集まっていた。
一人は珀黎翔の側近であり優しげな面差しをもちながら実際には氷の側近切れ者李順と密かに呼ばれている眼鏡をかけた青年である。代替わりの前から珀黎翔に付き従い、内乱の折りにも後方支援を務めつつその文官としての才能を見せつけた。
もう一人は幾分小柄で一見すると子供とも見間違える男だった。だがその素性は子供どころではない。珀黎翔の信任厚い子飼いの隠密である浩大だ。こちらも珀黎翔が王位につく前からの主従である。
他国の情報収集のため国外に放っていた浩大を呼び戻したのは珀黎翔でありそれが夕鈴を密かに警護するためであったことは夕鈴自身はしらない。
「本当に他の奴はやれないのか?」
浩大がうめくように言う。
「だって、俺が出かけている間お妃ちゃんに何かあるかもしれないし…」
「何をそう嫌がっているんですか、浩大」
李順は今度は下手に出ることにしたらしい。
「あなたでなければと陛下はご判断になってわざわざあなたを呼ばれたんです。だいたいあなたは今までもこの手の任務となれば任せられてきたでしょう?」
他に任せられる人材がいないということもありますがと李順は付け加えた。
「今までは今までだろ」
浩大は首を振る。
「そりゃね…できなくはないよ?。でもお妃ちゃんがどう思うか」
「他の者に任せるわけにはいかない」
珀黎翔は執務机の上で両手を組んだ。
「夕鈴にはしばらく仕事で王都を留守にすると言っておけ。日頃何くれと姿を見せていたお前がいなくなると夕鈴が気にするかもしれない」
もういくら食い下がってもこの計画が実行されるらしいと気づいて浩大は珀黎翔に確認する。
「…陛下…それって…やっぱりご命令ですか」
「悪いな。…命令だ」
きっぱりと珀黎翔が言う。
浩大は大きなため息をついた。
「それじゃしかたない。従いますよ、陛下」
本当に青菜に塩をふったようにしおれきった表情を見せて浩大は一度床の上に膝を付き、珀黎翔に王に対する拝礼を行うと、いつもは一瞬で消え失せるのに窓わくからよろよろと消え失せたのだった。
「…いささか気の毒でしたか?。浩大はけっこう夕鈴殿に肩入れしていますし」
李順の言葉に珀黎翔はうなずく。
「それはわかっている」
李順はちらりと珀黎翔へ視線を投げ、もう一度浩大が出て行った窓をみた。
「やはり他の者にお任せあっては?」
「どうだろうな。なかなか難しい仕事だ。あいつしかやれないだろう」
「…おっしゃる通りです。陛下」
李順は片方の手で眼鏡を押し上げた。
「ではやはり浩大にはこのままがんばってもらうとして…浩大の留守中、夕鈴殿には複数の護衛をつけておきましょう」
いつもは夕鈴の護衛は浩大が一手に引き受けている。浩大の有能さというのはもちろんだが、護衛をしていると夕鈴に感づかせないのは浩大の力量だった。
「腕のいいものを選んでおけ。夕鈴の自由は極力束縛しないように」
「かしこまりました」
珀黎翔の言葉に李順は一礼したのだった。
******
すぐに仕事にかかれと珀黎翔には命じられている。その前に夕鈴に別れを告げておけとも。浩大は王宮の中を人目につかないようにひらひらと屋根を伝い勝手知ったる後宮へと舞い戻ってきた。夕鈴の護衛が仕事であるので後宮の地理は掌のように承知している。
「ああ…氾紅珠が来ているんだ」
浩大は口の中でつぶやいた。
夕鈴が氾紅珠と談笑している声が聞こえる。偽物のお妃である夕鈴だがもちろん表向きには珀黎翔のたった一人の寵姫であり、その立場は貴族の姫たちの羨望の的だ。氾紅珠は貴族の姫ながらなかなか気質もよく身分のしれない下級妃である夕鈴と親しくつきあっていた。
「うーん」
珀黎翔にはすぐに仕事に取りかかるようにと命じられている。
これは夕鈴に挨拶をする間もないだろうかと浩大が迷っているうちに氾紅珠は帰る時間が来たようだった。
「それでは私は帰らせていただきますわ、お妃様」
あの夕鈴への思慕に満ちたまなざしが見えるようである。浩大は早々に氾紅珠に対する警戒は解いていた。
父親の氾大臣の思惑はどうあれ、氾紅珠本人は夕鈴に対する害意はない。
「ですけれど本日お話を伺って私は本当に思いを強くしましたわ。陛下はお妃様のことを愛していらっしゃる。それは真実の愛なのだわ」
「そ…そう?」
「そうですわよ」
氾紅珠が力を込めてうなずく。それを聞いていた浩大は笑いをかみ殺すのに必死だった。
夕鈴の困り切った顔が見えるようだ。
「また柳大臣が失礼にも陛下にお妃様候補の姫をおすすめになられたとか」
憤慨する氾紅珠の話が聞こえてくる。
「真実の愛で結ばれた陛下とお妃様の間にどうしてそんなに他の姫を近づけようとするのかしら」
氾紅珠はため息をついてみせた。
「私は父に伺いましたの」
「氾大臣はなんと?」
夕鈴の声がきこえる。
「父が申すにはお妃様がおひとりだということが問題なのだと言うのです。お一人だけをご寵愛になっては嫉妬も羨望もすべてお妃様に向かい、後見を務めている李順様の失脚を狙う貴族も多くなるのだと。複数の妃がいれば、妃同士でも競い合い、華やかな後宮になるだろうし、何よりも夕鈴様にもいいのだと。本当に失礼してしまうわ!」
「いや、氾家のお姫様にしちゃ、いいところをついているんじゃないの?」
浩大は口の中でつぶやいた。
「陛下のお心は私にははかり知ることもできませんけれど」
夕鈴が答えているのが聞こえる。
「陛下がお望みであれば何人のお妃様がお越しになろうとも私は受け入れるだけですわ」
「おお。満点の答えじゃのう」
不意に傍らから聞こえた声にしかし浩大は振り向かなかった。もちろん隠密である浩大は相手の接近もその素性もわかっていた。
現れたのは後宮の管理人である張元である。張元は夕鈴をきわめて高く評価しており夕鈴に本物の妃になれと焚きつけているのだが、まだそれはかなえられていなかった。
「あの答えは満点なんだ?」
「そうとも」
浩大の言葉に張元はうなずく。
「陛下のお心が第一。内心は何を考えていようと少なくとも陛下の前では、そして後宮の女官たちの前ではその態度を貫かねばならん。そして影で涙するか、あるいは影で相手の失脚をたくらむか。…まあ陛下のご生母の舞姫様は失脚をたくらまれた方だったがな」
「影で泣いて…?。そういうの、俺にはよくわからないけれどね」
「ま、女の戦いだからな。…おお氾紅珠姫がお帰りのようじゃ。お見送りせねばな」
「張のじーさんが見送るってことは氾家のお姫様はやっぱり妃候補なんだ?」
「あたりまえじゃわ」
張元老師はうなずいた。
「身分家柄人物、どこをとっても非の打ち所のない姫だぞ。…それにあの娘ともうまくやっていくだろう。妃として迎えるには最適だと思うのだが陛下はうんとはいわんのでなあ」
「…そりゃ言わないだろうねえ」
浩大はつぶやいた。
「それじゃ、俺はちょっとお妃ちゃんに挨拶してくるわ」
「挨拶…?」
張元は眉を寄せる。
「うん。ちょっと仕事でしばらくお妃ちゃんのところにこられないとおもうからさ」
「お前さんがいないと冗談を言い合う相手がいなくなるのお」
張元は残念そうにつぶやいた。
「ま、早く戻ってこられるようにがんばるよ」
そう言いおいて浩大はふっと姿を消したのだった。
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