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春コミ参加のお祭り企画
いつもそらいろさんごの作品をご覧くださっている読者様に感謝を込めて
完全新作を先行公開です。お楽しみください

「桜咲く、花の季節」 2013,3,17 春コミックシティ発行予定
B6P100 1000円分定額小為替+210円分切手+宛名カード1枚

珀黎翔×汀夕鈴
これが最後と思い定めた夜に出会った優しい人。その人の素性も知らず、夕鈴は相手に心惹かれる。
そして浩大とともに狼陛下の暗殺に荷担した夕鈴の前に現れたのは・・・

桜咲く花の季節
    *******

ここは白陽国。桜の季節である。凍てつくような寒さもゆるみ、まだ青いつぼみながら木々の梢には花の気配が感じられるようになっている。
白陽国は代替わりしたばかり。代替わりの内乱を自ら軍を率いて制圧した若き王珀黎翔が治める国である。戦場の鬼神、冷酷非情と恐れられる珀黎翔は、汚職官僚を追放し、徹底した能力主義を強いて強硬に国の改革を押し進めていた。
貴族たちからは何度となく珀黎翔に対する暗殺のたくらみがあったものの自ら剣をとる武王である珀黎翔の前にその暗殺のたくらみは退けられた。
最近は王に慰みとして妃を与え、その外戚になって権勢をふるおうとする者も出始めたのだが、そちらも珀黎翔がことごとく退けていることが遠くこの辺境の村にも聞こえてきていた。
ここは白陽国でも王都より離れた隠れ里だった。
ひっそりと何人かの人間が集落をつくり暮らしている。村のはずれには泉もあり、その泉池のほとりに少女がいた。
艶やかな黒髪、大きくて生き生きとしたまなざし。
「夕鈴ちゃん、夕鈴ちゃん」
泉のほとりを歩いていた少女は不意に声をかけられて立ち止まった。
先ほどまで誰もいなかった場所に、ふっと小柄な青年が現れる。一見するとまるで子供のようだ。だがその口調の軽さにも関わらずその子供が意外にも老成していることを夕鈴は知っていた。
「浩大・・・相変わらずね。急に現れたらびっくりするわ」
「そろそろ慣れてもいい頃だと思うけどな」
浩大は肩をすくめる。
「久しぶりだわ。戻ってきていたのね」
「呼び戻されてね」
浩大はにっこりとする。
「怪我なく戻ってきてくれてよかったわ」
「そりゃ、怪我なんてするかよ。俺はこれでも有能なんだぜ?」
「それは・・・よく知ってるわ」
夕鈴はにっこりと笑った。
「それにいつも浩大に助けてもらっているし」
「それはまあ・・・なんか夕鈴ちゃんはほっとけないからね」
浩大は苦笑した。
「俺とちがって夕鈴ちゃんはさ、ふつうの女の子だもんな」
「もう・・・ふつうの生活には戻れないわ・・・」
夕鈴はつぶやいた。
夕鈴は拐かされてこの村に来た。この集落に住んでいるものはただの村人ではない。暗殺の技術を教育され、依頼を受けて暗殺や忙殺を行う組織にとらわれた者たちが住んでいる。
「で、すぐに新しい仕事かと思ったら」
浩大は肩をすくめた。
「夕鈴ちゃんも呼んでこいっていわれてさ。迎えにきたんだよ」
「私・・・も?」
幾分驚いて夕鈴は顔を上げた。
「でも私・・・」
「うん」
にこにこと浩大はうなずく。
「夕鈴ちゃんが殺しをできないことは俺は知ってるけれどさ。呼んでこいって命令なんだ」
「・・・いよいよやらされるのかしら」
「仕方ないよね」
浩大は幾分気の毒そうに夕鈴をみた。
「弟の命を盾にされちゃな。殺し屋も人手不足だからね。夕鈴ちゃんは可愛いし、可愛い女の子は殺し屋としてはモノになるからね」
「・・・・・・」
まだ年端もいかぬ弟とともにさらわれてこの村に連れてこられた夕鈴は弟の命を盾に脅されて殺し屋としての教育を受けさせられることになった。
その辺りの事情を浩大は知っている。
「まあさ。二人でくんで殺しをやるっていうのはめっったにないからさ。どちらか一人ってことになるんじゃないの?。そうしたら俺が引き受けるから夕鈴ちゃんは安心していいよ」
「でもそれじゃ・・・浩大に悪いわ」
「いいって」
浩大は先にたって歩き始める。
「俺の手はとうに血に汚れているからね。まあ同じ人を殺すにしてもせめて相手が悪い奴だといいなって思うぐらいで俺はとっくに人としての道はあきらめているよ。いつか俺は死ぬだろうね。敵か・・・味方の手によって」
重い空気を振り払うように浩大はにやりと笑って見せた。
「でも俺は有能だからね。そんなのはずっと先のことだろうけれどさ」
「・・・・・・」
どうしてこんなことになってしまったのだろう。国が乱れ荒れるというのはこういうことなのか。
新しく王になったという狼陛下。あの恐れられる王がこの国を立て直してはくれないだろうか。
そう思いながら夕鈴は浩大の後について歩き出した。

   ******

「ではこれで午前の執務は終了です」
李順の言葉に部屋の中の緊張がほどける。書類をとりまとめぞろぞろと執務室を出て行く執務補佐官たちをみやって李順は口元を引き結んだ。珀黎翔はまだ執務室の広い紫檀の机の前に座っている。
すらりとした長身に王の執務服がよく似合う。国一番の美姫だったという生母の血を色濃く引いた端正な面差し。しかしどこにもなよやかな所はない。鋭いまなざし引き締まった口元。そしてその腰に携えた実用的な長剣もまたきわめて異質に見えた。それは王宮内でさえ暗殺の危機にさらされることのある珀黎翔の現状を意味していた。
もっとも珀黎翔は自ら剣をとり戦うことができる武人である。珀黎翔の粛正を恐れ送り込まれてくる暗殺者をことごとく返り討ちにしていることでもそれは知られている。
最近は暗殺者もなりを潜め、珀黎翔の強靱な意志の元で国内は一定の平和を保たれるようになった。
「どうした?」
その声はけっして大声ではないが隅々まで通る声だった。さすがに戦場で軍を率いて戦ったことだけはある。
珀黎翔の表情も声も威圧するものではなかったが李順はわずかに身震いした。
「恐れながら・・・進言をお許しいただけますなら申し上げたいことが」
「許す」
珀黎翔は口元にわずかに笑みを浮かべる。
「何をそうかしこまっている。お前と私の仲だろう。ともにこの国のために戦うと決めた」
そしてふとその表情がほころんだ。
その笑顔は凍てついた執務室にふいに春を呼び込むようにさえ見えた。
「お前は僕のもう一つの姿も知っているだろう?」
珀黎翔の一人称が私から僕に変わったことに李順は不信な表情は見せなかった。
「恐れながら」
李順はうなずいた。
「陛下がこの国のため恐れられる王を演じようと決意されたことも、本来は穏やかなお心をお持ちのことも存じております」
「それがどうして進言という話になるんだ?」
もう本当に等身大の青年の口調で珀黎翔は首を傾げた。
「陛下・・・」
李順は口ごもり言葉を探した。
「私は・・・陛下が恐れられる狼陛下と優しく穏やかなお心をともに併せ持つ方でいらっしゃると存じ上げております」
「・・・・・・」
「しかしながら陛下は、この国のため恐れられる王を演じようと・・・それは陛下の本質でもあられるのですが一度の心のゆるみもなく強く強靱な心を持つ王として務められております」
「そうでなければこの国を統治できぬ」
不意に珀黎翔の口調も表情も変わった。あの恐れられる王に畏怖される狼陛下に戻っていた。
「ですが・・・あえて進言をお許しいただけるなら。陛下どうぞお心の慰めを」
「・・・?」
それは珀黎翔の予期してない言葉だった。
「心の慰め?」
「宮中の凡百の貴族どもではありませんが、陛下には一夜の女性ではなく、お心を許せる女性が・・・妃が必要ではないかと」
「それは必要ないだろう」
珀黎翔はあっさりと李順の言葉を退けた。
「妃はまだ不要だ。第一後宮でまで暗殺の憂き目に会うのはまっぴらだ」
「貴族の娘でなくてもよろしいでしょう。民の中から心映えのいい娘を迎え陛下のお心の慰めにされてはいかがでしょうか」
珀黎翔は李順にまなざしを向けた。考え込むような表情をみせ、わずかに口元をゆがめる。
「そんなことをお前が言うとは。私はよほど執務官たちに恐れられていると見える」
「ご賢察の通りです」
李順は頭を下げて珀黎翔の言葉を肯定した。
「陛下を恐れ、執務官たちの執務の能率も下がっておりますし」
「今は仕方がないだろう。だが執務官たちをおびえさせないように心に留めておく。進言は聞いたが受けることはせぬ」
「それがご判断であれば」
李順は譲歩した。
そして幾分口調が砕けたものになる。眼鏡を押し上げ李順はつぶやいた。
「陛下、何にしても我々の手駒不足は深刻なのです。柳方淵は陛下に心髄しているとはいえ、文官の氾水月は陛下を恐れて自宅に引きこもってしまいました。あとの者たちは官僚登用試験をくぐり抜けてきて能力はあるものの実務には乏しい。何より、陛下をお守りする力のある信用できる者も少ない」
「それは僕の不徳とするところだよ」
珀黎翔もまた李順の言葉に引きずられるように再び口調が本来の青年のものにもどっていた。
「まあ仕方がない。今はこの国のため、身を削って働くしかないだろうな」
「最近宮中でまた動きがあるようです。陛下護衛を常につけておりますがどうかその護衛を退けるということだけはなさらぬようお願いいたします。この国は・・・陛下があっての国なのですから」
「心するよ」
「ではこれで私は下がらせていただきます」
一礼して李順は執務室を出て行ったのだった。

    ******

暗殺の任務を命じられる場所に夕鈴が来たのははじめてだった。部屋は全体に暗く明かりを落とされている。一方夕鈴と浩大のいる場所だけ明かりが差しつけられていた。部屋の反対側にしきりがありその向こうに依頼人がいるらしい。
その依頼人の顔は見られないが相手の方からは浩大や夕鈴の顔が見えるような作りだ。
仲介にたつのは組織の男でその男には見覚えがあった。
「来たか」
男は現れた浩大と夕鈴を見てうなずいた。
「依頼がある。暗殺だ」
「・・・っ」
いつか命じられる日がくるかもしれないと思っていたが夕鈴はわずかに身をふるわせた。
「ふうん」
浩大の方はひるむ気配もなかった。
「殺しとなるとふつう一人だろ」
「・・・まて」
ついたての奥から声がかかった。
「ずいぶん若いな。私は腕のよい者をと言ったはずだが」
仲介の男はちらりとついたての方をみた。
「こちらの男・・・浩大は組織のナンバーワンです。おそらく白陽国でも一二を争う腕前でしょう。こいつにできなければ誰にもできますまい。・・・それはそちらがよくご承知のはず」
「確かにな」
男の口調が苦々しくなった。
「何人暗殺者を差し向けてもことごとく返り討ちにあっている。・・・しかし、若い。もしも捕まったら簡単に口を割り、こちらのことを明かすようでは困るのだ」
「信用ねえな」
浩大は軽い口調で答えた。
「一番腕のいい奴がほしいんだろ。あんたがそう指名したから俺が来たんだ。ついでに拷問に対する訓練も積んでいる。ま、拷問じゃ口は割らないぜ」
「そちらについてはご心配なさることなく」
仲介の男が言葉を添える。浩大はちらりと傍らに立つ夕鈴をみた。
「だからさ、夕鈴は帰せよ。俺が引き受ける。殺しは一人の仕事だ。足手まといは必要ない」
「・・・浩大」
夕鈴ははっと視線を浩大へ向けた。
泉のほとりで言ってくれたとおり浩大は夕鈴に殺しの仕事をさせないために自分一人で引き受けようとしてくれているのだ。
だが、夕鈴が何か口を挟む前についたての奥から声がかかった。
「それはだめだ」
「・・・何でだよ?」
「今回は相手がただ者ではない。女はお前を引き入れるために必要だ」
女の殺しの腕は問わぬが見目よくなければなるまいと依頼人は続けた。
「・・・」
浩大の表情が幾分引き締まった。だが口調の軽さは変わらずに浩大は尋ねた。
「ふうん。それじゃその相手はいったい誰だよ」
「・・・この国の王。狼陛下の異名を持つ珀黎翔だ」
依頼人は重々しく答えたのだった。

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