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「妃の証」再録集62に再録(発行は2014,5,4を予定しています)
珀黎翔×汀夕鈴
こちら!浩大が大活躍の話です!浩大ファンの方、お待たせしました!どうぞお楽しみください
夕鈴がいなくなった。
いつも夕鈴につけていた浩大も姿を消す
夕鈴の行方を追う珀黎翔と李順は…

妃の証
    ********

「夕鈴、夕鈴…」
呼びながら珀黎翔は目を瞬いた。
「そんなに急いで歩いたら危ないよ」
「大丈夫です!」
生き生きとした黒い瞳。艶やかな黒髪を結い上げた会いらしい少女。珀黎翔の目の前でにっこりと振り返ったのは夕鈴だった。
「でも今日はまだ新年のうちだよ。大通りも随分混んでいるし」
珀黎翔は手を差し出した。
「迷子にならないように手をつないでいこうよ」
「……」
夕鈴は少し赤くなった。だが珀黎翔の言うこともその通りだと思ったらしい。手を差し出して珀黎翔の手を握る。
「もっとこちらによってね、夕鈴」
ぐっと珀黎翔に引き寄せられて夕鈴は少しすねたようにつぶやいた。
「陛下の方こそ…もっと目立たないようにしてくださらないと」
その夕鈴の言葉に珀黎翔は首を傾げる。
「…目立たないように振る舞っていると思うが…?」
「だめです!」
夕鈴は手を振った。ほのかにその顔は赤い。幾分疑うように夕鈴はつぶやいた。
「それで目立たないんですか?」
「うん」
にっこりと珀黎翔は笑う。
「下町用の服に着替えているし、眼鏡もちゃんとかけているでしょう」
それに剣だってふつうの町の若者が持っていてもおかしくないような実用的な剣だしと付け加える。
それを少し離れてついて歩きながら李順はため息をついた。
「いや夕鈴殿の言葉が正しいと思いますが」
「まったくだよな」
答えたのは浩大である。
「陛下は己を知らなさすぎます。夕鈴殿がおっしゃるとおり。いくら素性を偽っても見る目があるものにはただ人ではないことがわかってしまうでしょう」
「そうだよな。あれで変装しているってところが陛下らしいんだけれどさ」
浩大はにっこりと笑った。
「でもまあ…今のところは平和だし。お妃ちゃんとのつかの間のデートを楽しんでいるしいいんじゃないの?」
めちゃくちゃ甘くて俺としては見ているだけで胸がいっぱいだけれどねと浩大は付け加えた。全く同じ気持ちだと言わんばかりに李順はうなずいたが口を開いたその内容は珀黎翔と夕鈴の甘々デートの件ではなかった。
「もう少ししたら徐克右と会うわけですが」
「うーん」
浩大はちらりと傍らの李順をみた。
「陛下があいつと会っている間お妃ちゃんはどっちが…?」
「それはあなたでしょう。もちろん」
李順はつぶやいた。
「私とあなたでは武技が違いすぎます。ここが王宮ならともかく下町ですし、今の情勢でお妃ちゃんと私というのは陛下が許しませんよ」
「まあ王都は安全だと思うけれどね」
浩大はにっこりとした。李順はもともと文官なので浩大の方が圧倒的に武技において勝っているのは単純な事実なのでそれについてはコメントしない。浩大の方はこれからの夕鈴の護衛の件よりも目の前の二人組の方が気になるようで笑みを浮かべつつささやいた。
「しかし…陛下もいつお妃ちゃんに自分の気持ちを言うのかなあ」
「私としては夕鈴殿が本物のお妃になってしまうのは避けたいんですが」
李順はそれを思っただけで頭が痛いといった表情でこめかみをもんだ。
「李順だってお妃ちゃんのことをけっこう買っているんだろ。陛下だってお妃ちゃんのことが好きだし。それがお妃ちゃんに伝わっていないっていうのが俺にはわからないんだけれどさ」
浩大は肩をすくめて目の前を歩いていく二人をみた。
「でもさ、陛下が目立つのは仕方がないけれど。お妃ちゃんも目立つよね」
「…まあそうですね」
浩大の言葉に不承不承ながら李順はうなずいた。
目の前で仲良く手をつないでいる二人はどこから見ても恋人同士にしかみえない。長身の珀黎翔は眼鏡越しでもその端正な美貌は隠しようもないが実際のところ通りを行く人の目を引きつけているのは夕鈴の方だっただろう。
艶やかな黒髪は町の娘風にきれいに結い上げられている。髪飾りは王宮の妃のものではなく、このお忍びの視察が始まった時に珀黎翔が夕鈴に買って自らつけてやったものだがそれがまた似合っていた。生き生きとした黒い瞳、日を照り返して輝く肌の白さ、珀黎翔を見上げるほんのりと上気した頬。
美人というのとは違うだろうが確かに人目を引く少女であることは李順も認めねばならなかった。
「あれが恋する少女の愛らしさというのなら私もどなたかと恋してみたいと思わなくもないぐらいですよ」
それは李順にしては最大級の褒め言葉といえた。浩大の方は夕鈴を見下ろす珀黎翔の笑顔にうなずく。
「あんな笑顔を陛下にさせることができるんならさ。俺はお妃ちゃんが本物のお妃ちゃんになってもいいなって思うんだよ」
お妃ちゃんが貴族でなくてもねと浩大は付け加えた。
「まあ…あなたはそうでしょうね」
譲歩しつつ李順はつぶやいた。
「それに私も…夕鈴殿が貴族の身分にないという理由だけで夕鈴殿がお妃になることを反対しているわけじゃありません」
「そうだよな。…だってさ」
浩大はちらりと李順へ視線を送った。
「あんたが後見になっているんだろ。妃の身分は後見の家に帰属する。李家を軽んじる奴なんてそうそういないと思うけれど?。それでもあんた陛下の前じゃお妃ちゃんに対して反対の立場を貫いているよな?。どうしてだよ」
それは前から浩大は疑問に思っていたらしい。李順はちらりと傍らを歩く浩大を見た。年齢はほぼ同じ二人だが浩大が子供然と振る舞っているのでちょっと見た目には兄弟ほどの年齢差にも見える。
「陛下の妃、後宮の花としては全く不満はありませんとも」
李順はつぶやいた。
「へええ?」
浩大はわずかに目を見開く。
「それじゃ…何が問題なんだ?」
「問題はありません。…私が見ているのは…夕鈴殿のご正妃としての資質です」
「うわ」
浩大は驚いたように目を瞬いた。そして幾分その表情が和らぐ。
「なんだ。そう思っていたんだ?。俺より遙か先を読んでいるじゃん。さすが官僚登用試験一位通過の実力の持ち主だよ」
だが浩大のその言葉に李順が応える前に声がかかった。
「…どうした?。遅いぞ、お前たち」
少し離れたところで珀黎翔が立ち止まる。
「今行きます」
そう答えて李順は目を瞬いた。
「あのさ。俺たちってどう見られていると思う?」
こちらも少し足を早めながら浩大が話題を変えた。李順もそのまま話につきあう。
「そうですね…大店の若旦那とその恋人。そしてお付きの人という感じでしょうね」
「実は俺もそう思うわ」
実際にはこの国の至高の陛下とその最愛のお妃様、それに陛下の側近と護衛なんだけれどねと浩大は笑う。
浩大と李順の話を聞いているのかいなかったのか。珀黎翔が二人を振り返る。
「そろそろ時間もいいようだ。浩大、しばらく夕鈴と食事でもしていてくれ」
「承知しました」
そう答えて浩大は軽く夕鈴にうなずいて見せたのだった。

    *******

珀黎翔と李順が連れだって人混みの中へ紛れ込んでいくのを見送ると浩大は夕鈴に軽くうなずいて見せた。
「それじゃお妃ちゃん、食事でもして待っていようよ」
知っている食堂があるからそこでねと浩大は夕鈴に笑いかけた。
食堂は通りに面していて扉を抜けて中に入ると思ったより広くて明るかった。
「お姉ちゃん!肉まん二つ!」
浩大が声をあげて給仕の女の子に言う。
「はい!お待たせ!」
すぐに運ばれてきた料理は熱々の肉まんと汁物で、夕鈴はそれを受け取った。一口かじって夕鈴は目を見開く。
「うわあ、おいしい」
「うん。そうだろ」
にこにこと浩大が言う。もう一口かじりながら夕鈴は目の前で笑っている浩大をみた。
「浩大って本当にいろんなことをよく知っているわね」
「そうかな?。お妃ちゃんもおいしいお店とか陛下をよく案内しているって聞いたけれど?」
もっとも陛下はお妃ちゃんの手作りの方が嬉しいっていつも言っているけれどねと浩大は付け加えた。
「そんな…」
珀黎翔のことを思うだけで顔が赤くなる気がする。夕鈴はぱたぱたと顔を手であおいだ。
「私は自分の住んでいた家の近くしか知らないわ」
「そうか」
言われて気が付いたように浩大はうなずいた。
「そういやお妃ちゃんはふつうの女の子だもんな。あまり大門から他のところに出たりはしないか」
白陽国は大国である。王都の城下はいくつものエリアに区切られ内乱の対応や治安のために夜になるそれぞれの区画を行き来する大門が閉じられるのだ。
「市場があるからそうでもないんだけれど」
「そうだね。…このあたりは陛下が王位につかれてから随分変わったもんな」
浩大はもう肉まんを食べ終わって汁物を飲み干していた。夕鈴が食べ終わるのを待ってくれているのだ。
「あ、ごめんなさい。遅くて」
夕鈴の言葉に浩大は首を振る。
「別に遅くないよ?。それにもう少しのんびりしていて大丈夫だと思う。ちょっと…陛下は話が長くなるかもしれないからね」
浩大は目を瞬いた。
「克右さんと会うって陛下はおっしゃってたわ」
「うん。…そのままあいつは出かけると思うから…王宮にくると敵の隠密もいるかもしれないし潜入工作中に素性がばれるのを警戒してね」
さらりと浩大は答えたが夕鈴はわずかに目を見開いてしまった。
「潜入工作…!」
先ほどまでの平和で暖かな空気が一瞬で吹き飛んでしまうような感じ。
「そう」
浩大の表情は読めない。いつもひょうひょうとして笑顔の隠密は、しかし内心を滅多に気取らせることはなかった。
「何か…起こっているの?」
珀黎翔の執務室に夕鈴が同席することは多い。だが、そんな潜入工作が必要な事件は起こっていなかったはずだ。
「うん…ちょっとね。大したことはないんだけれどさ」
浩大は考え込んだ。
「あんまりお妃ちゃんに言わないようにって言われているんだけれどさ」
夕鈴は肉まんを食べる手を止める。食堂はざわざわとしていて二人が話している言葉は隣の小卓では網聞き取れないだろう。
「私に言わない…ように…?」
「陛下としちゃ、お妃ちゃんに心配をかけたくないんだろ」
浩大は肩をすくめた。
「ですがもちろん、お妃様のご下問とあらば俺はお答えしますが?」
そう言って浩大はにやりと笑って見せた。
「もう…!」
その浩大の口調そのものも笑みを含んでいて夕鈴は思わず笑い出してしまった。
「私は本物のお妃様じゃないし。陛下が秘密にとおっしゃったんならもちろん言わなくていいわ、浩大」
秘密にされたというのならもっと悲しい気持ちになってもおかしくないのにどうしてなにも不安がこみ上げてこないのだろうと思う。
今珀黎翔と二人でのんびりと王都の下町を歩いて、市場も随分盛んになっているのをみた。珀黎翔に贈ってもらったかんざしに夕鈴は軽く手をふれる。
なんだろう。珀黎翔がなにを言ったとしてもそれが夕鈴のことを大切に思ってくれているからだと素直に感じられるのは。
そこまで考えて夕鈴はあわてて首を振った。
夕鈴は臨時花嫁なのだ。この国の絶対の存在、神の血を引くという白陽国王家の直系男子であり現国王である珀黎翔に大切に思われているなんて思い上がりも甚だしい。
「…お妃ちゃん。本当に見ていてあきないねえ」
夕鈴が百面相をしているところを眺めていたらしい浩大がそういいながらお茶を飲んだ。お茶は小卓の上においてあって自由に飲むことができるようになっている。浩大は夕鈴にも茶器にお茶を注いでくれた。こういうところは本当に浩大はよく気が付く。
実は夕鈴は知らなかったが、浩大は夕鈴が食べるものすべてに目を配っていて毒味していたのだった。夕鈴の前に置かれた肉まんを己の方へと引き寄せ、さらにお茶も自分が先に飲んで確かめていたのだった。だがもちろん夕鈴はそれには気づかなかった。
「ありがとう、浩大」
「どういたしまして。陛下もそろそろお妃ちゃんに自分の気持ちを言えばいいのに。…ま、これだけウサギが初心だととても手を出せないか」
最後の方は口の中で消えてよく聞こえなかった。
「え…?。浩大何か言った?」
「いやいや、なにも言っていないよ」
たぶん浩大は本当は夕鈴よりも年上なのだ。だがその一見子供のように見える容姿と口調にそのまま丸め込まれて夕鈴はうなずいていたのだった。

   *******

「…ではご指示を承りました」
両手を組んで徐克右は深く頭を下げた。あたりには談笑する声や料理や酒を運んでいく物音が聞こえる。ここは下町の食堂よりは少し格式張った料理屋の個室の一つだった。珀黎翔と李順はここで徐克右と待ち合わせをしていた。
軍部で密偵をつとめることが多い徐克右だが、今回は軍を離れ珀黎翔の直接の命令を受けて動く事になっている。
すでに任務の説明は終わっていた。
「尊き御身をこのような場所にまでお運びいただきありがとうございます」
「直接話をしておきたかったからな」
珀黎翔はうなずいた。
「王宮にお前を呼び寄せてとも思ったが、潜入工作前でもあるし、外で会った方がいいだろう。それに危険な任務でもある」
「潜入工作は俺はそんなに得意じゃないんですが…他に人材がということであれば少なくとも李順よりは俺の方が向いているとは思いますし、何より陛下が直々にお言葉をくださったんですから喜んでやらせていただきます」
李順は肩をすくめてみせた。すでに任務についての話は終わっている。辺境軍でともに過ごした仲間という気安さの感じられる口調で李順はうなずいた。
「私もあの当時はそれなりには潜入工作もしてきたのですが…まあ私の本分としては企画立案の方でしょうからね」
そうだよなと徐克右は李順にうなずいてみせた。
「で、陛下」
徐克右は視線を珀黎翔へと戻す。
「お妃様は…?。いらっしゃるようならご挨拶を」
「いや、別のところで待たせているからな」
夕鈴が臨時バイトで珀黎翔が寵愛していた後宮の妃であったことは徐克右にもうばれてしまっていた。別に隠してたわけではないが説明が面倒とかその方がおもしろいとかそれぞれの思惑で最近それを徐克右は知ったばかりである。
「お一人で…?」
幾分徐克右は驚いたように言う。
「王都は確かに治安がよくなりましたが…」
お妃様をお一人でというのは危険だなと徐克右はつぶやいた。それが臨時花嫁という意味合いではなく本物のお妃という意味合いが込められていたことに李順は気づいたものの何も言わなかった。
「いや、浩大をつけている」
そう言いながら珀黎翔の表情は夕鈴を思ってか優しくほころんだ。それを徐克右はまぶしいような表情でみた。そして珀黎翔の言葉に目を瞬く。
「ああ、あいつか」
徐克右はうなずいた。
「あいつがついているなら大丈夫かな…俺がこの国で怖いなって思うのは陛下をのぞけばあいつぐらいですからね」
徐克右は珀黎翔へと視線をもどした。
「本当に一見子供にも見えるくせにあいつは怖いぐらい鍛錬した体をしている。…まあ見る目があるやつだってなかなか気づかないでしょうけれどね」
しかもあいつ自身が気づかれないように振る舞っているからなと徐克右は言った。
「まあ…だから陛下直属ということなんでしょう」
李順が口を挟んだ。徐克右は辺境軍のころを思い起こすようにつぶやいた。
「浩大は陛下から特別な任務を命じられることが多い奴でしたよね。そんな力のある隠密なのに陛下はお妃様にあいつをつけていらっしゃるんですか。うーん。あの子はかわいくていい子ですよね」
臨時花嫁にしておくのはもったいないなと徐克右は言う。
「そうだろう」
満足そうに珀黎翔はうなずいてみせる。
「武闘派の話はさておくとして」
李順は割って入った。浩大が武闘派といっていいものかどうかは別として珀黎翔と徐克右は間違いなく武闘派だった。
「夕鈴殿も待っていることですし、我々はもう行きますが、陛下も後から合流される予定ですので無事に潜入を果たしてくださいね」
「まあ力の限りがんばるさ。任せておいてくれ」
そう李順に答えると徐克右はもう一度珀黎翔に王に対する拝礼を行った。
「では失礼ながら陛下、先に出ます」
「ああ。…生きて戻れ。徐克右」
「…」
わずかに徐克右は目を見開いた。珀黎翔は付け加える。
「その上で任務を果たせよ」
徐克右はもう一度深く一礼する。
「ありがたきお言葉。必ずや無事に任務を果たしてごらんに入れます」
そして今度は徐克右は後ろを振り返ることなく出て行ったのだった。
ややあって李順がつぶやいた。
「…まあ確かになかなか危険な任務ではありますが「生きて」と陛下直々のお言葉を賜ったことですし克右も命を大事に任務を果たすでしょう」
「そうだな」
珀黎翔は口元を引き結んだ。「生きて戻れ」と徐克右に言うことが目的で珀黎翔はわざわざここまで出てきたのである。
「徐克右は夕鈴殿に最後にお目にかかって挨拶をと考えていたようですが…」
李順の言葉に珀黎翔は口元を引き結んだ。
「そうだな。わかっている」
だが夕鈴を下町まで伴いながらもこの場に伴わず浩大とともにおいてきたのには理由がある。危険な任務を徐克右に命じる姿を珀黎翔は夕鈴には見せたくなかった。
王としては必要な冷酷非情さかもしれない。この国のため、民のため徐克右の情報が必要だ。だが夕鈴は狼陛下は演技だと思っている。何もこれが珀黎翔の本性の一つだと恐れさせたくはない。
「私はやはり狼陛下そのものなのだろうな」
珀黎翔は低くつぶやく。
「陛下…?」
「危険な任務だ。素性が疑われたら克右は命を落としかねない。周り中が敵だからな」
珀黎翔の言葉に李順はちらりと珀黎翔をみた。
「わかっている。これはこの国を守るため、無力な民を守るために我々が負うべき危険だということは」
李順は一瞬黙り込みそして口を開いた。
「確かに危険な任務です。それでも陛下が直々にお命じになり、「生きて戻れ」と命じられたのです。やり遂げますよ。克右は」
李順はいい、珀黎翔にうなずいて見せた。
「行きましょう。陛下」
そしてさすがに珀黎翔の気持ちをおもんぱかってか幾分声を明るくした。
「夕鈴殿がお待ちでいらっしゃいます」
「そうだな」
答えて珀黎翔は密会に使った小料理屋の部屋を出て行ったのだった。


「妃の証」再録集62に再録(発行は2014,5,4を予定しています)
珀黎翔×汀夕鈴

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