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「百年の恋、手の中に」再録集59に再録(2014,1,26日に発行)
珀黎翔×汀夕鈴
王都の城下に流れる不老不死の噂
暗躍する組織の影
一方揺れる記憶を抱えた夕鈴は…
   百年の夢、手の中に
 
   *******

ここは白陽国である。先代の王からの代替わりの争乱を自ら軍を率いて制圧した若き王珀黎翔が治める国だ。
その後宮でたった一人寵愛されるのは素性もしれない下級妃の夕鈴である。
珀黎翔は己の寵愛の深さを示すかのように自分の第一の側近であり心を許した腹心でもある李順を夕鈴の後見につけていた。
今日も今日とて後宮では李順の厳しいお妃教育が行われていた。
「そこ、足が違います!」
びしりと厳しい声が飛ぶ。
「は…はい!」
夕鈴は一度前に足を踏みだしかけた右足をそっと元にもどした。
「目線!、左のかかとを見る!」
「はい!」
これが最後の決めのポーズである。夕鈴はにこやかに微笑んだ。ややあって李順がうなずく。
「まあなんとか見られるようになったのではないかと思いますよ」
「はー疲れた」
そう言いながら夕鈴はよろけるように椅子に腰を下ろした。遅ればせながらぱちぱちと拍手が聞こえる。
「いや、お妃ちゃんなかなかうまかったよ?」
「ありがとう、浩大」
そう答えながら夕鈴は声の聞こえてきた方へ視線を向けた。窓際の床の上に座っていたのは目立たない服装に身を包んだ浩大だった。珀黎翔の直属の隠密である。いつも夕鈴の前ではにこにこと笑顔を絶やさないが実際には白陽国王都の闇の世界では超一流と名を馳せている男だった。
この三人は表向き珀黎翔の寵姫である夕鈴とその後見にして重臣の李順、そして珀黎翔の信頼する隠密の浩大という関係なのだが、実は裏の事情が存在する。国内が珀黎翔の強力な統治によって一定の平和を見て次の王宮の貴族の関心事は操ることのできない珀黎翔を後宮に妃を入れて籠絡し閨閥によって動かすことへと移っていった。珀黎翔は後宮に一人の妃も迎えていない。王は若く国一番の美貌を誇った生母舞姫の血を色濃く引き、端正な美貌には他国の姫からも輿入れの打診がくるほどである。その王の妃にと望む貴族の娘は一人や二人ではない。持ち込まれる縁談を断るため側近の李順がやとったのが臨時花嫁、プロ妃の夕鈴である。短期で終わるはずだったバイトは夕鈴が宮中の備品を壊したことで、そして夕鈴を次第に愛しく思い始めていた珀黎翔によって思いも寄らぬ長期にとわたっていた。己の信頼する隠密である浩大を呼び戻し、密かに夕鈴の護衛につけているのも珀黎翔が夕鈴を想っている現れである。
いくつもの事件を経て、夕鈴を珀黎翔のお妃にと密かに李順も浩大も認めるようになっていた。
しかしながらその当人である夕鈴は己がそのように想われているとは露とも知らぬ。
今日も李順の厳しいお妃教育を受けているところだったのだ。
「ありがとうございました」
夕鈴は扇子を閉じるときちんと頭を下げてお礼を言った。
「どういたしまして、夕鈴殿」
にっこりと李順はうなずいてみせた。
「李順の指導は厳しいけれど教え方はうまいよな」
浩大の言葉に夕鈴はうなずいた。
「ええ。本当にそうです。それに李順さんは忙しいのにこうして来てもらって…私は臨時花嫁なのにすみません」
臨時花嫁という夕鈴の言葉に李順は少し口元に笑みを浮かべた。ちらりと浩大へ視線を向ける。浩大も笑っていたが何も口を挟まなかった。
「ほめても何も出ませんよ、夕鈴殿」
「いえ、お礼をいっているので。…あの、お時間があったらお茶を飲んでいきませんか?」
「そうですね…いただきましょう」
李順はにっこりとうなずいた。ふと顔をあげて居間の入り口へと視線を向ける。
「それは…私ももらおうかな」
響きのいい声に夕鈴ははっと振り返った。
「陛下…!」
思わず知らず夕鈴の顔に笑みが浮かぶ。その笑みを見て珀黎翔が嬉しげに口元をゆがめたことに気がついたのは浩大と李順だけだった。
「今日はお忙しいからお越しになれないと伺っていたのに…大丈夫なんですか?」
そう言いながら夕鈴は珀黎翔のそばへと駆け寄った。本来ゆっくりと動くべき後宮の妃なのだが珀黎翔が一人で現れたということは女官たちを下がらせたのだろうと思う。
「うん。予定より早く終わったからね」
愛しくてたまらないといった表情で珀黎翔は駆け寄ってきた夕鈴を見下ろした。そのまま手を伸ばして夕鈴を抱きしめる。
「あ…あの…陛下、今お妃演技は必要ありませんから」
同じ部屋の中には浩大も李順もいる。人目をはばかって夕鈴は小声でそう訴えたが、珀黎翔は手を離さなかった。
「だってね。いつ女官たちが現れるかわからないだろう?。そのときに夕鈴と仲のいい夫婦らしくしていないとだめでしょう?」
「…あーあ。お妃ちゃん言いくるめられちゃっているよ」
小声でつぶやいたのは浩大だった。こちらも少し壁際に退いていた李順が小声で答える。
「まあ、あの裏表のなさが陛下が夕鈴殿を気に入られた理由でしょうが…」
夕鈴はようやく珀黎翔の手の中から抜け出してお茶の用意を始めた。夕鈴が動く様子を目で追いながら珀黎翔はいつもの長椅子に腰を下ろす。
「浩大、お菓子ならそこにあるから好きに摘んでね」
浩大は夕鈴の居間にやってくるときはお菓子をよく食べている。意外にもお菓子の話題で盛り上がることもある。
「ああ、ありがとう、お妃ちゃん」
浩大はいつの間にか自分用に用意されているお菓子の鉢に手を伸ばした。
「ああ、これってお妃ちゃんが作ったお菓子じゃん」
「夕鈴が…?」
珀黎翔は目を瞬く。
「そうですよ。この前李順に頼んでこっそり水場を使わせてもらったんだよな」
「よく知っているわね、浩大」
「そりゃあね」
浩大はにっこりとうなずいて立ち上がるとお菓子の鉢をもって珀黎翔のそばへと移動した。
「どうぞ、陛下。間に合ってよかったですね。あの時味見した李順はともかくとして陛下はこれ初めてでしょう?」
浩大が差し出したお菓子の鉢から珀黎翔は一つ焼き菓子を手に取った。
「陛下に…と思って作ったんですけれどうまくいかなくて」
夕鈴は困ったように口ごもる。
「大丈夫でしょう」
李順が口を挟んだ。
「陛下はお妃ちゃんが作ったら、それがどんな形だろうと食べると思うな」
浩大の言葉にじろりと視線を向けて黙らせてから珀黎翔は夕鈴ににっこりと微笑みかけた。
「僕のために作ってくれたんだ。それは嬉しいな。いただくよ、夕鈴」
「お口にあえばいいんですけれど」
夕鈴は口ごもり珀黎翔が王都の下町ではよくあるお菓子を口元へと運ぶのをみた。
「うん。おいしいね」
珀黎翔はにっこりと笑う。
「しかし…これはおもしろい形だね」
珀黎翔の言葉に夕鈴はにっこりと笑った。
「それはざくろの形なんです」
下町で作られている普通のお菓子ですけれど本当はかなり由緒があるものなんですよと夕鈴は言葉を続けた。
「由緒がある…?」
「建国王のお妃様がお作りになったという…なぜざくろの形に似せてつくられたのかはわかりませんけれど」
「ざくろ…?。ああ、そういえば逸話もある果実だったね。人の血をすって生きる魔物に血の代わりに与えて王が改心させたという果物だったかな」
少し驚いて夕鈴は目を瞬いた。
「それは知りませんでした。陛下おとぎ話にも…詳しいですね」
夕鈴に珀黎翔は微笑みかける。
「たまたまね。…ちょうど資料を読んだところだったからな」
「資料…?」
夕鈴は首を傾げた。午前の執務ではそんな伝承に関わるような案件があっただろうか。
「今ちょっと王都で妙な動きがあってね」
お茶を受け取りながら珀黎翔は夕鈴に傍らに座るようにと軽く長椅子の上をたたいた。
遠慮しつつ夕鈴は珀黎翔の傍らに腰を下ろす。李順はお茶を黙って口元に運んでいた。浩大の方はお菓子に夢中になっているそぶりだ。
「それでね。ざくろの話が出たのは…今王都で最近妙な噂話が出ているんだよ」
こう言うときには浩大も李順も口を挟まない。
「妙な噂話…?」
「そう。王都には建国王の時代に人の血をすって生きる長命の種族がいたんだって。その種族は人と変わらぬ外見をもっていたんだ。建国王の悲恋の妃はその種族の者だったとも伝えられている」
夕鈴のそのお菓子を考案したのが建国王の妃だとするとちょっと噂は信憑性が高まるねと珀黎翔は微笑んだ。
「そうなんですか…?」
「まあ、噂。いつから伝わるともしれぬ伝承なんだけれどね」
珀黎翔は少し考えるそぶりで夕鈴を見下ろした。
「まあ吸血というよりは長命の種族と伝えられているかな…その種族はずっと己の素性を隠し人に紛れて生きてきたんだけれどちょうど今年がその長命の種族の姫が目覚める年なんだって」
「まるで眠り姫のようでしょう」
そう口を挟んだのは李順だった。
「そうだな」
「その話だけなら平和そうですけれど…」
「目覚めるだけならね。吸血するというのはいくつかのおとぎ話が重なっているだけかもしれないし実際長命の家系というのは存在するからね。別に本当に吸血するといっても人が死ぬまで吸血するという噂はないそうだし。本当に長命で吸血する種族がいるものならば…」
幾分珀黎翔のまなざしが狼陛下のものとなった。
「私はその種族を狩るつもりもないしひっそりと我が国で生きていってくれればいいとも思うが…」
「陛下、現実主義なのに、長命で吸血の種族がいるというのは信じているんですか?」
思わず夕鈴はそう尋ねた。珀黎翔はにっこりと笑った。
「信じる信じないというのはおいておこうか。僕は確証もないことは判断しない。…だがこの噂話には大きな問題点があるんだよ」
「その長命の種族の姫をずっと追っていたやつらがいたんだってさ」
不意にそう口を挟んだのは浩大だった。
「追っていた…人たち…?」
いぶかしい思いが声に出たのかもしれない。浩大は肩をすくめた。
「だってね。そのお姫様千年も生きているらしいんだぜ?。まあ本当かどうかはわからないけれどね。不老不死は人の夢。その夢が目の前にあるんだ。その長命の種族が死に絶えたと一時伝えられたのは狩られたからだとも聞いているけど」
不老不死のくせに死に絶えたというのは妙だけれどねと浩大は付け加えた。
「浩大も詳しいですね」
李順が言う。
「そりゃな」
浩大は肩をすくめた。
「だって今王都の闇の世界じゃこの話でもちきりだからね。…で、陛下がこういう話題を出したっていうのはお妃ちゃんに注意するためだろ」
ふいに矛先が夕鈴に向けられて夕鈴はあわてた。
「え…?私ですか?」
浩大が大きくうなずく。
「そうですよ、夕鈴殿」
浩大に続いて李順まで口を挟んできて夕鈴は目を瞬いた。
「あの…」
こう言うときに夕鈴に説明するのはどうやら李順の役割となっているらしい。珀黎翔はただにこにこと笑っているだけだ。
「この話題に関係するのは美しい年頃の少女ということになっています。実家の弟君は条件からはずれますから安全ですが、夕鈴殿が一人で下町にこっそり戻ったりしたらどれほど危険かわかりません」
浩大が李順に続いて言う。
「そうそう。お妃ちゃん一人で戻ったりしないでよ」
そう二人かかりでいわれて夕鈴は目を瞬いた。
「でもそんな長命の種族がいるなんて思えないのに…」
「その姫が目覚めるということが問題なのではありません。その姫をねらっているやつらがいるだろうということが問題なのです」
李順がずばりと切り返す。
「うん。そういうことだよ。注意してね」
最後には珀黎翔にも念を押されて夕鈴はただうなずくしかなかったのだった。

    ******

冬の夜の月はさえざえと白い光をまき散らしている。今日は珀黎翔は多忙だということで後宮には夜こられないと侍官から連絡があった。年末ということもあるので忙しいのだろうと思う。女官たちはもう下がっていた。
「そろそろ眠らないと…」
夕鈴は口の中でつぶやいた。
夕鈴は窓から外を見上げる。
珀黎翔も後宮にわたってこられないというのであれば今日の夕鈴の臨時花嫁の仕事は終わりだ。
でもなぜか胸が騒ぐ気がした。
「…もう夜も遅いよ、お妃ちゃん」
ひょいっと浩大が窓からのぞいた。
思わず悲鳴をあげかけて夕鈴は胸元を押さえる。
「もう…浩大」
身軽に窓をおしあける。
一瞬で飛び込んできた浩大はすぐに窓を閉めたが、その一瞬に窓から吹き込んできた冷たい夜気が夕鈴の身をわずかにふるわせた。
「いくら窓越しでもさ。外は寒いし。陛下も今日はこられないんだろ。もう休みなよ、お妃ちゃん」
「でも浩大はおきているじゃない」
夕鈴はそう言い返したが浩大はにっこりと笑った。
「俺はいいんだよ。隠密だし。でもね、お妃ちゃんが元気に陛下を迎えてくれたらきっと陛下も頑張れると思うんだよね」
いつもにこにこと明るい隠密は不意にどきっとするようなことを言う。
「そう…かしら。私は…偽物のお妃様なのに」
わずかな胸の痛みとともに夕鈴はそうつぶやいた。
「うーん」
浩大は首を傾げた。
「そこは…陛下にはいろいろお考えがあると思うけれど」
一人で夕鈴がいるとき時々浩大は現れて話し相手になってくれる。夕鈴は浩大へと視線を向けた。このひょうひょうとしてつかみ所のない隠密はいつも明るくて夕鈴にけっこう肩入れしてくれていると思うときがある。
「あのね…浩大」
そういって夕鈴はためらった。
「昼間の陛下の話…どう思う?」
夕鈴の問いに浩大はわずかに首を傾げた。
「ええと…建国王のお妃様が長命の不老不死の種族だったって話?」
「そう」
あの話を聞いた時からずっと心の底にその長命のお姫様のことが気にかかっていた。あの後女官たちに聞いたところによれば建国王の妃がもしかするとその長命の種族だったのかもしれないという噂もあるらしい。
そのうちに建国王のお妃様の似姿をお持ちしますわと女官が言ってくれた。
でも夕鈴は気にかかっていたのだ。もしもその長命のお姫様が王を愛し、そして人と自分との寿命の差でたった一人取り残されたのだとしたらどんなに寂しいことだろう。
「あれは…違うと思うよ」
浩大ははっきりと言った。
「あの建国王のお妃様が…殺されたのかどうかは別としてなくなったことははっきり記録に残っている。この話は不老不死の…て言われているんだから建国王のお妃様は普通の…本当に普通の女の子だったんだと思うな」
お妃ちゃんが気にすることはないと思うけれどと浩大は付け加えた。
「浩大は本当にはっきりしているわね」
夕鈴は苦笑した。
「そりゃあ現実主義の陛下に仕えているからね」
そう切り返してしかし浩大はわずかに眉をひそめた。
「でもさ。その種族がいたっていうのはまんざら嘘でもないのかもしれないと思うよ」
ふとどきんと胸が高鳴る気がした。
「そうなの?」
夕鈴に浩大は幾分真顔でうなずいて見せた。
「だってさ。…不老不死は確かに人間にとっちゃ夢だし、そういう言い伝えがはるか東方の国に残っているというのも聞いたことがあるけれど…この近隣の国では珍しいだろ」
夕鈴は浩大の話を聞きながらかんがえてみる。不老不死の話というのは白陽国伝来のものなのだろうか。
「それは…知らないけれど。そう言えば浩大は陛下のご命令で諸国を情報収集して回っていたのよね」
夕鈴の言葉に浩大はうなずいた。
「そう。そしてね。この不老不死伝説は本当に珍しいんだよ」
浩大は床の上に座り込みながら夕鈴を見上げた。どうやら夕鈴が本当に眠れないのだと察してもう少し話し相手になってくれるつもりらしい。
「この白陽国にはずっとその伝説がある。その種族のお姫様は一族が次々と失われていくことを憂えて、長い眠りについたんだって。お妃ちゃんも聞いたことがあるんじゃないの?」
「そうね…でも私が知っているのは…」
夕鈴は口ごもった。それは孤独の中に生きる姫の悲しみ。冬の炉端で子供たち相手にかたられるような夢物語だ。
「でもね、この件についてはもう少し血生臭い話もあるんだよな」
だから昼間李順や陛下がお妃ちゃんに後宮の外に一人でいくなって言ってたんだろと浩大が言った。
「え…」
夕鈴は浩大へと視線を向けた。
「どういう…こと?」
黒く大きな瞳を輝かせて浩大は夕鈴の問いに答えた。
「あのさ…そのお姫様が本当にいるのかどうかは別にして…不老不死の種族って奴を追いかけている組織があるんだよ」
「え…えええ…!」
夕鈴は思わず目を見開いた。
「そんなこと…」
そんな組織が存在
するなんて思いもよらない。
「なんで…?」
「ここは大国白陽国だぜ?。長生きできるならいくらでも金を出すっていう奴らもいる。けっこうこの国は文化も発達しているからね。…で、いよいよその噂のお姫様が目覚めるというので闇の世界では動きがあるんだよ」
「いったいいつ目覚めるというの?」
「今年」
夕鈴の問いにためらわずに浩大は答えた。
「今年…?」
思わず夕鈴は目を見開く。
「そう。噂話だけれどね。妙にそこだけははっきりしていてぶれがない。だから陛下もおかしいなって思っているんだろうけれど。そしてこの年末にお姫様が目覚めるんだってさ。そのお姫様を捕まえて生きたまま血肉をすすればただの人間にも不老長寿が手に入るって…実は…下町では若い娘が行方不明になっていたり…」
どきんとして夕鈴は胸元を押さえた。
「…浩大それって」
夕鈴の動揺には気づかぬ様子で浩大はもう少し言葉を続けていた。
「いや、だからその組織が暗躍しているんじゃないかって陛下も気にしていて…」
そこまで言い掛けて浩大は夕鈴を見上げ、しまったっといった表情で口を閉ざした。
「ごめん!。今のなし!。もう眠りなよ。それから本当に一人で下町にいっちゃだめだから!。弟に会いに行きたいという時は俺がついて行くから。頼むよ、お妃ちゃん。それじゃね。俺はもういくわ」
早口に言うと浩大はさっと立ち上がった。
「浩大…」
夕鈴が呼び止める間もなく浩大は姿を消してしまったのだった。





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